ドミナント シルバー( Dominant Silver )

略表記はDS、常染色体上の優性遺伝形質である。

  

ドミナントシルバー(以下DSと略す)遺伝子の働きは希釈である。

頭~背翼面の体色を薄めるだけでなく、オレンジと黒のどちらのマーキングにも、

全ての色に対して希釈をもたらす。

薄まりの度合いには個体差が非常に大きい。

   

ひとくくりにDSといっても濃いバージョンと淡いバージョンでは違う種に見えるかもしれない。

そしてベースカラーの薄まりとマーキングの薄まりとが必ず同レベルであるともいえない。

   

つまりマークは非常に薄くなっているのに体色はさほどでなかったり、

オレンジマークが薄いのに黒マークは濃い目に残ったりと、

「体色」「オレンジマーク」「黒マーク」は別々に薄まるようである。

   

しかしDSにはDSの確かな特徴があるので、特にメスの判別が難しい種だがポイントを見極めてほしい。

  

  

DSのメスを2羽並べてみた。 左がライトフォームと呼ばれる希釈が進んだ淡色バージョン、 右がダークフォームと呼ばれる濃いバージョンである。

この2羽と、一番上の大きい写真のオスを見て、翼の色の希釈にムラがあるのが分かると思う。

典型的なDSの特徴として翼にはグレーとベージュがまだらになったような不統一な色むらがある。

  

もう一つの典型的な特徴は、涙マークや胸バーがあまり希釈されず黒いタイプであってさえ

尾バーは必ず薄い色になっていること。

    ↑

そして目立たないところではあるが特徴的なのが、少しフォーンチークの尾バーに似ており

尾バーが濃淡のグラデーションになっていることをよく見て憶えておいてほしい。

   

このドミナントシルバーという変異であるが、各国で色々な呼び方をされている。

希釈の程度によって個体差(色幅)が大きいので、薄いのをライトフォーム、濃いのをダークフォームということは先ほど述べたが、日本ではライトとダークに厳密に分ける意味はなく全部「ドミナントシルバー」でかまわない。

海外ではライトフォームとダークフォームで別々の審査基準があるためショーの際どちらの部門にエントリーするか決める必要がある。

なんにせよ日本では「ドミナントシルバー」でいいが、一応他の国の呼び方を表にしてみる。

  

   

【 オスの外観 】

チークパッチとフランクが明るい色に変わっているのだが、ライトバックとの相違は黒マーキングも薄まっていることである。

もし涙マークと胸バーが濃いタイプでも尾バーは必ず薄まっているのでここで判別できる。

翼の色むら、尾バーの濃淡、体色の個体差の大きさ、これらは上記のとおり。

チークパッチはアプリコットチークと表現されるアンズ色から薄いベージュ、

ときにはオフホワイトまで。

フランクはただ薄まっているというより「ピンキッシュ・フォーン」と表現される独特の色合いになる。

その色合いが希釈の程度によりさまざまな濃度で現れる。

ロアと上尾筒は白。 腹はクリーム色である。

もし腹が白っぽい個体でも必ず下尾筒あたりはクリーム色である。

   

【 メスの外観 】

ダークであればノーマルのようだが、やはり尾バーは薄い。

希釈したタイプではグレーイザベルによく似ていて見分けづらい

しかしグレーイザベルのメスの胸は白いがDSメスのアゴ~胸には体色がついている。

翼の色むら、尾バーの濃淡、体色の個体差の大きさ、これらは上記のとおり。

ロアは白だが上尾筒はオスとちがいクリーム色である。腹や下尾筒もオスよりクリーム色が強い。

   

【 ヒナと若鳥の外観 】

孵化したヒナは他の希釈変異の鳥同様に鈍い薄茶色のクチバシをしており皮膚の色も黒くない。

筆毛の色を見れば薄い色の羽毛であることが確認できる。若鳥は成鳥メスの姿に似ている。

  

【 スプリット鳥の見分け方 】

ドミナントとは優性遺伝のこと。だからつまり遺伝子を1個持てば表現型として生まれてくる。

よってDSのスプリットは存在しない。

DSとして発現していない鳥がDS遺伝子を隠し持つことはない。

   

【 致死遺伝子 】

優性遺伝の変異には劣性の致死遺伝を持ったものが多く、錦華鳥ではブラックフェイスと梵天とドミナントシルバーがダブルファクターになると卵の中で死んで孵化しないといわれている。

梵天のページに交配図があるので「梵天」を「DS」に置き換えて見てほしい。

  

【 DSと他変異との結合 】

DS自身がダイリュート(色を薄める)変異であるので、それ以上に薄める変異とは結合させないほうが良い。ライトバックは例外である。

しかしCFW、フォーンチーク、イザベル、レセッシブシルバー、ホワイト との結合はすべきでない。

   

ドミナントシルバーのチークパッチをできる限り白くしたいという考えで、CFWとの結合を試みるブリーダーもいる。

CFW遺伝子はチークやフランクを薄くする傾向があるためそれに期待するからである。

しかしCFWは体色の希釈においてDSよりも上位の変異である

つまり体色はCFW的に白に傾く。さらにクリーム色だった腹もCFWによって真っ白になる。

そしてCFWのページの補記を見てほしいのだがCFWはCFWとしてだけでチークパッチを白にできる。

ということはDSとCFWを結合させても、この白いチークのCFWにそっくりになるだけである。

DSの無駄遣いだと思うので止めたほうがいい。

DSのチークを白くしたいならライトバックとの結合が良い。

  


◆ 結合品種の解説 ◆


  

ライトバック・ドミナントシルバー(LB DS)

DSはたとえ涙マークが希釈されてないタイプでも尾バーは薄いものである。尾バーが黒いこと、腹が下尾筒まで白いこと、これらの特徴からこの鳥はダークフォームDSとLBが結合したものであろう。ここで右の画像を見て比較してほしい。

これはBFだがLB/CFWである。チーク、フランクともに希釈され背面の色も似ていて見分けづらいが、LB/CFWのフランクはライトオレンジである。対してLB DSならフランクはピンキッシュ・フォーンである。尾(ベース)の色も判断材料になる。LB DSだと尾バーは黒くてもベースは淡色になる。

  


   

ライトバック・ドミナントシルバー(LB DS)

上のLB DSに対してこちらはライトフォームDSとLBが結合したものであろう。

DSのチークパッチを白くすることに期待してライトバックと結合させることは非常に人気がある。

チークパッチは白に近い色まで薄くすることができる。

イメージ画像のオスは真っ白なチークパッチと黒マーキングのコントラストが美しい。

DSは涙マークや胸バーなど黒も薄くする変異だが、ライトバックと結合することで黒マーキングをフルな濃さで出すことが出来る。

尾(ベース)は背翼面と同系の淡色。尾バーは少し薄まってはいるが黒である。

DSの腹は黄褐色だが、ライトバックはそれをクリーンな白に変える。

メスは、オスからチークと胸のマーキングを除いただけで他は同様の姿である。

下尾筒までが真っ白なこと、マークと尾バーが黒いこと、それがLB DSの証である。

DS特有の翼の「まだら」は希釈が進んだライトなタイプではわかりづらくなる。

  


  

ブラックフェイス・ドミナントシルバー(BF DS)

BFであるのはオスのロアが黒くなっているので一目瞭然、フランクのスポットも消えている。

メスのロアはグレーになり胸のグレーは腹のほうへと広がっている。

DSは体色、黒マーク、オレンジマーク、全てを薄める変異である。

なのでただBFが結合したからといって、それだけで黒マーキングが黒で出るというわけではない。

このオスも何とか黒いのはロアだけで胸も尾バーも薄められた黒である。

黒マーキングを真っ黒に出させようと思ったらLB遺伝子が必要であろう。

  


  

ブラックフェイス・ドミナントシルバー/ob (BF DS/ob)

この鳥もBF DSなのだが、やはり黒を濃く出せるのはロアだけのようである。

BF遺伝子によりフランクからはスポットが無くなっている。

BFとDSはどちらも優性遺伝なので双方を交配すれば仔の代で即BF DSが生まれてくるためこの結合は人気があり個体数も多いようである。

ロアと胸に少しオレンジが出ているのでオレンジブレスト遺伝子のスプリットを持っていると思われる。

  


  

ブラックフェイス・ブラックブレスト・ドミナントシルバー(BF BB DS)

  

チークパッチが大きくなり胸の黒が上に広がっているので尾は横縞でもブラックブレスト遺伝子を2個持っているであろう。BFに加えて同じ黒系のBBも同時に持つことにより相乗効果で黒を濃く出し、BF効果(腹まで黒を広げる)も強く出している。

しかし黒の濃さに関してはライトバックほどの効果ではない。

この鳥のように腹まで黒いBF DSに、さらにLB遺伝子を持たせたら、オーストラリアの「ウェスタン・オーストラリアン・ファンシー」(=WAF)に似た鳥ができるのではないだろうか。

詳しくは↓の【備考】参照。

メスはオスから黒いマーキング(尾以外)を取り払った姿である。

  


  

ブラックフェイス・ドミナントシルバー/bb ob (BF DS/bb ob)

BF DSであるのは間違いないが、ロアのあたりがオレンジ色に変わっているのでOBスプリットは持っているだろう。

BBスプリットも持ってそうなかんじなのだが。よくわからない外観である。

ところで。 私はDSのチークパッチは淡色でクッキリと出ているところが魅力だと思うので、BB遺伝子を入れてチークの輪郭をぼやぼやに崩さないほうが美しいと思う。

  


  

ドミナント・クリーム(DC)=( DS+F )

単にクリームと呼ばれもするが、これはドミナントシルバー変異とフォーン変異との結合品種である。

日本では何だかわからないがクリーム色をしていればクリームと勝手に呼ぶが、いい加減な名を本気にしてDSが入ってもない鳥を勘違いしないことである。

ドミナントシルバーは色の薄まりにおいて個体差が大きいため、頭~背翼面の色合いは「薄められたフォーンカラー」から「淡いクリーム色」までのバリエーションがある。

イメージ画像いちばん左がDSのダークなタイプとフォーンが結合したもの。

中央の♂と右の♀はライトなタイプにフォーンが結合したものである。

オスメスともに黒マーキングは茶に変えられさらに薄められている。

オスは白っぽいチークパッチを持ちフランクも淡色化している。

メスの頬には体色と同じ色がついていてクリームバック♀のようなチークパッチエリアの境界はない。

さらに喉から胸にも体色がついている。

オスメスともに胸から下へはフォーンの特徴が出て黄褐色を示す。

とくに下腹~下尾筒は濃い。

体色が薄いライトフォームのタイプでは背中より腹のほうが色が濃いくらいである。

  


  

【 ドミナント シルバー備考 】

オーストラリアにはチークパッチが真っ白なDSが存在し、それを「シルバー」と呼ぶことは上記した通り。

また、オーストラリアにはブラックフェイス同士の選択交配から作り出されたノドから下尾筒まで体の下側が全て黒いという「ブラック ボディー」と呼ばれる鳥が存在する(これは新しい変異ではなく遺伝子的にはブラックフェイスである)。

この「シルバー」と「ブラック ボディー」を交配すると、2種とも優性遺伝であるので仔の代ですぐ結合種ができるが、それが「ウェスタン・オーストラリアン・ファンシー(WAF)」という素晴らしいコントラストの鳥である。

オーストラリア以外の国でWAFのような鳥を作出する最も良い方法は、「ドミナントシルバー」と「ライトバック」と「ブラックフェイス」を結合させることである。

言うまでもないがその際の種鳥にはできるだけチークが淡色なライトフォームDSと、できる限り腹の黒を拡張させた系統のBFをセレクトする必要がある。

  

この3変異の結合は、望まれた色とコントラストをもたらすであろう。

DSとBFが優性遺伝でありLBが伴性遺伝なので、それは他のトリプル結合よりも早く達成される。

3変異すべてを結合させた最初の鳥を2世代目で作り出すことができるのである。

  

DS♂ x LB♀ →ここから生まれた♂のDSか、LB♂ x DS♀ →ここから生まれたDSなら♂でも♀でも。

BF♂ x LB♀ →ここから生まれた♂のBF、またはLB♂ x BF♀ →ここから生まれたBFなら♂でも♀でもいい。

これら選ばれたDSとBFを交配すれば「BF LB DS」の♂も♀もが生まれてくる。

交配の注意点をオーストラリアの変異(その1)の「WAF」のところに詳しく書いたので読んでほしい。

BFもDSも、ともに劣性の致死遺伝子を持っているので、その2種の結合型(BF DS)同士を交配すると致死率が2倍になるのである。

  

 

【サイトマップ】


キンカフリーク/錦華鳥(キンカチョウ)の品種と遺伝解説

キンカチョウには変異が多く実に多彩なバリエーションを展開しています このホームページではキンカチョウの個々の変異遺伝子がもたらす特徴や遺伝のしかた さらにそれらの変異が結合(コンビネーション)して出現する多数の品種を 写真とともに解説したいと思います