フォーン( Fawn )
略表記はF、性染色体上の劣性遺伝形質である。
フォーン遺伝子は、ノーマルのグレイ部分をライトブラウンあるいはフォーンカラー(小鹿色)へ、
そしてノーマルの黒マーキング(涙マークと喉ストライプと胸バー)と尾をダークブラウンに変える。
つまりユーメラニンを抑制し、黒の出現を抑えるはたらきをする。
【 オスの外観 】
オスのオレンジマーキングは、ほぼノーマルと同じ色である。
腹と下尾筒の色はノーマルよりも黄褐色を帯びる。
これを海外のショー基準は欠点とみなし体の下側はより白っぽいことが好まれるらしいが、フォーンの特徴としてこれは仕方ない。
黒色素の抑制により、ノーマル種での黒マーキングはすべて焦げ茶色に置き換わる。
体色は温かみのあるやわらかいライトブラウンである。
体色のブラウンには色の濃さにおいて少しばかりの個体差はある。(どの種でも少しはある)
ロアはノーマルと同じオフホワイト。腰と上尾筒もオフホワイトである。
【 メスの外観 】
性差はノーマル種に準ずる。
チークエリア、喉ストライプ、胸バー、これらオス特有のマーキングがあるエリアはすべてライトブラウンになる。
胸バーエリアより下(腹と下尾筒)はオスよりもいっそう黄褐色が強い。
【 ヒナ・若鳥の外観 】
ノーマル種のヒナの黒い皮膚に比べて、一緒に巣の中にいたとしてもフォーンのヒナは明るい色の皮膚をしているので違いは完全にわかる。
クチバシは赤みのない鈍い茶色。
ノーマル種の真っ黒なクチバシとの違いは歴然である。
小さいヒナのうちは目がルビーのような赤に見えることがある。
体や羽毛と同様に目の黒い色素も抑制されているからであるが、目は成長とともに黒っぽく変わっていく。
しかし成鳥になっても目に陽光が当たったときなどに瞳が透明な赤に見えることがある。
幼鳥羽のときからフォーンカラーである。
雛換羽前の若鳥は、成鳥メスの姿に似る。
【 スプリット鳥の見分け方 】
〈 オス 〉
オスについては親からフォーン遺伝子を受け継いでスプリットの状態で持っているかどうかを外見から判断する確実な方法はない。
両親のどちらかがフォーン表現型であるなら間違いなくそこから生まれたオスの仔はフォーンスプリットである。
しかしそういうケースで生まれたオスを親にした場合に組ませるメスがフォーンでないなら、そこから生まれた非フォーン表現のオスヒナには「フォーンスプリットなし」も「フォーンスプリット持ち」も出る。
しかしその2者を外見上で見分けられない。
そういう場合にはテスト繁殖を行って確定する。
フォーンであれフォーンスプリットであれ、フォーン遺伝子を持ったオスは相手のメスの品種にかかわらず必ずフォーンのメスの仔を出す。それが伴性遺伝である。
〈 メス 〉
伴性遺伝変異の遺伝子をメスが隠し持つ(スプリットとして持つ)ことはない。
メスはフォーン遺伝子を1個持てばその変異の表現型となる。
よってメスのフォーンスプリットは有り得ない。
【 フォーンと他変異との結合 】
フォーンは現在、ノーマルグレイと同様に錦華鳥の基本カラーだと見なすことが出来る。
ほとんどすべての変異種にグレーバージョンとフォーンバージョンが存在する。
性染色体にフォーンを持たないノーマルなままのバージョンがグレーバージョン、性染色体にフォーンを持って発現したものがフォーンバージョンである。
フォーン変異はすべての変異と結合させることが出来る。
他変異と結合してそれぞれが特徴を同時に表現し合っても、ホワイト以外のどんな変異とも打ち消し合いをしない。
◆ 結合品種の解説 ◆
オレンジブレスト・フォーン (OB F)
オレンジブレスト遺伝子は全体の色に影響を与えないので体色はフォーンのままで、黒マーキングから黒色素を抑制しオレンジ色に変える。
フォーン遺伝子も黒色素を抑える変異であるのでこの2つの変異の結合はオレンジ色を鮮やかに発色させる。
オスメスともに涙マークがオレンジ色になる。
そのため一見して涙マークが無いように見えることもあるだろう。
クチバシの付け根もオレンジに変わろうとする。
尾バーがオレンジ色になり、上尾筒にもオレンジ色を含む。
オスの喉ストライプと胸バーはオレンジ色となり、結果すべてのマーキングと尾バーが同じ色で統一される。
ブラックブレスト・フォーン (BB F)
OBと同じく、BBも体色には干渉しないので背翼面はフォーンカラーである。
BBの働きにより涙マークが消失しそのエリアが白となってロアと同化する。
画像提供:@muu11031015
焦げ茶色の胸バーはノドの方(上)に向かって拡張されている。
チークパッチが頭頂部・後頭部に向けて広がっている。
BBが尾バーを無くするので尾カバーはオフホワイトとなる。
腹は黄褐色である。
メスはチークパッチエリアと胸に体色を薄くした色を載せる。
頬が白っぽく抜けたかんじになる。
クチバシの付け根に焦げ茶色でラインが入るが、ただのフォーンよりも BBが結合したほうがより濃く出る。
CFWフォーン (CFW-F)
CFWフォーンは「CFW」と「フォーン」を交配すれば必ず作れるというものではなく、伴性遺伝どうしである2種が偶然におきた遺伝子の乗り換わり現象(交叉という)によって一体となってひとつの性染色体に載ったもの。
いったん連鎖すれば結びついたまま一つのものとなって伝達される。
CFWは白い変異である。腹も下尾筒まで白い。
それがフォーンと結合したところで体色に関してはCFW変異が上位であり、
CFWフォーンは普通のCFWと変わらない。
ただ、黒であったマーキングの全てが焦げ茶色に変えられる。
ライトバック・フォーン (LB-F)
CFWフォーンと同じく伴性遺伝変異同士が連鎖して一つの性染色体に一緒に載ったもの
オスは「ライトバックフォーン遺伝子」を2個持っているということ。
オスメスとも頭~背翼面のフォーンカラーは薄められている。
そして腹は下尾筒に至るまでクリーンな白である。
オスのオレンジマーキングはライトバック遺伝子の働きで薄められている。
フォーン遺伝子により涙マーク・胸・尾は焦げ茶色となっている。
メスについてはオス特有のマーキングがないだけで他は同じである。
オスのマークがあるはずの位置には体色の薄茶がさらに薄くなったような色がついている。
(このイメージ画像のメスはBBスプリットを持っているため尾バーが変形している)
フォーンチーク (FC)
「チーク」という優性変異遺伝子を常染色体に持ったものが「グレイチーク」という灰色のチークパッチを持つ白い鳥であり、つまりこれが「チーク」のノーマルバージョンである。
このイメージ画像の「フォーンチーク」とは、「チーク(優性遺伝変異)」と「フォーン(伴性遺伝変異)」の結合品種である。
頭~背翼面は白で、明るいフォーンカラーで覆輪が入る。
涙マークと胸バーは焦げ茶色。尾バーは薄茶である。
オスのチークパッチはノーマルと同じオレンジ色のことが多いが半分だけフォーンカラーのこともある。
メスはフォーンカラーのチークパッチを持つ。
オスメスともに腹は黄褐色である。
右画像のメスはBB FCなので涙マークが消されている。
クリームバック (CB) = (CFW+F+Modifier)
CFW変異とフォーン変異が結合すれば「CFWフォーン」であるが、その結合時に変更遺伝子(modifier)というものが働いた場合にだけ「クリームバック」と呼ばれる鳥が出現する。
クリームバックは品種として認められていないのだが、オーストラリアではスタンダードが決められショーにも出品される。
基本的に外観はCFWであるが頭~背翼面が豊かなクリーム色を示す。
この色合いは何とも美しく、ピンクがかったようなクリームで柔らかい印象である。
涙マークは焦げ茶であるが、胸バー、尾バーは黄色がかったライトブラウンでこの色は特徴的である。
オスのチークパッチとフランクはCFWの特徴を反映して薄まったオレンジである。
メスにはチークパッチはないはずだが、その部分の色は薄く、チークパッチエリアが浮き出る特徴がある。
そして喉から胸に色がないのも特徴である。 オスメスともに腹から下尾筒はCFWの特徴として白である。
ドミナントクリーム (DC)=(DS+F)
単にクリームと呼ばれもするが、これはドミナントシルバー変異とフォーン変異との結合品種である。
日本では何だか判らずともクリーム色をしていればクリームと勝手に呼ぶが、いい加減な名を本気にしてDSが入ってもない鳥を勘違いしないことである。
この品種についてはドミナントシルバーのページで詳しく書いた。
ドミナントシルバーは色の薄まりにおいて個体差が大きいため、頭~背翼面の色合いは「薄められたフォーンカラー」から「淡いクリーム色」までのバリエーションがある。
オスメスともに黒マーキングは茶に変えられさらに薄められている。
オスは白っぽいチークパッチを持ちフランクも淡色化している。
メスの頬には体色と同じ色がついていてクリームバック♀のようなチークパッチエリアの境界はない。
さらに喉から胸にも体色がついている。
オスメスともに胸から下へはフォーンの特徴が出て黄褐色を示す。
とくに下腹~下尾筒は濃い。
体色が薄いライトフォームのタイプでは背中より腹のほうが色が濃いくらいである。
【 フォーン備考 】
戸外で飼育し、太陽光に晒すと、フォーンカラーの鳥は退色してしまうことがある。
しかも均等に退色せずまだらになり外観を損なう。
このことは海外サイトに書かれていたのだが本当だ。
もしフォーンカラーの鳥を品評会に出そうとするなら室内飼育するほうが良いようだ。
ところでキャットショーに臨もうとする漆黒の猫には日光浴をさせない。黒猫を日光にさらすと色褪せて茶色くなるからである。つまりそういうことなのかもしれない。
だがノーマルグレイが陽に晒されて薄くなるとは思わない。
フォーンカラーだけかもしれない。
フォーンはかつてアメリカではシナモンという名で呼ばれていたことがあるとのことだが、他の国でもそうだったかもしれない。
しかし現在はもうどこでもその呼称は使われていない。
「シナモン」という呼び方はカナリアのような地色が黄色の鳥に適用するべきもので、「フォーン」という名は錦華鳥のように地色が白の鳥に適用される。
ところで私が2003年に入手した錦華鳥のペアはシナモンキンカという名がついていた。
前にも書いたが日本ではわりにいい加減に名がつけられているので見た目の色でそう名づけられていたのだろう。
で、結局そのシナモンペアの正体は何かというとオスがグレーイザベル、メスがフォーンイザベルであった。
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